■は行
浜の兄弟【はまのきょうだい】

 立派な船を造り、百両の大金を手にした直に、家族は大喜び。そこへ五年前、浜の積立金を盗んで逃げた弟・兼松が帰ってくる。今は山金屋で働いていて、のれん分けの資金百両を貸してほしいという兼松。そこに江戸より手紙が届く。そこには兼松が山金屋の金、百両を使い込んで逃げたという内容が書かれてあった。落胆する年老いた父母。兼松のためにずっと苦労を重ねてきた家族をまたも裏切ったと激怒する直だが、父と母は兼松をかばう。泣く泣く家から去る兼松。その後、家に残された包みから、二百両と手紙が出てくる。
 実は兼松は山金屋の主人になっており、江戸からの手紙は兼松自らが書き、家族の優しさを試すつもりのものだったのだ。そして直も弟を思い、手元の百両を帰る兼松の荷物に忍ばせていた。互いの本心を知り、兄弟は手を取り合ったノ。

播随院長兵衛【ばんずいんちょうべえ】

 江戸っ子の侠客の潔さをスカッと見せる人気の舞台。ある日、旗本・水野十郎左衛門の家来の横暴を、侠客・播随院長兵衛がこらしめる。数日後、水野は長兵衛を酒宴に招く。罠と知りつつ、誘いを受けて出向こうとする長兵衛を、女房のお時や子分たちは必死で止める。だが、怖くて逃げたと言われたくない長兵衛の決意は揺るがず、子分らに早桶(樽で作った棺桶)の用意を言いつけると、「人は一代、名は末代」と言い残して、出かける。
 以前は武士であった長兵衛の腕を恐れ、まともに立ち会っては勝ち目がないと見た水野は、わざと酒をこぼし、濡れた袴(はかま)を乾かす間に一風呂浴びるよう、強引に勧める。長兵衛が湯船に入ろうとしたそのとき、水野の家来たちが襲う。そしてついに、水野の槍が長兵衛の脇腹深くを突き刺した、まさにそのとき、長兵衛の子分たちが、早桶をかついでやってきた。それを見た水野は、長兵衛の死を覚悟の心意気に、「殺すも惜しい」とつぶやくのだった。


婦系図【ふけいず】

 泉鏡花の名作。「日本橋」「滝の白糸」と並んで新派の舞台の定番であり、身分違いの恋に引き裂かれる2人の悲しい結末が涙を誘う。
 孤児でスリだった早瀬主税(ちから)は、ドイツ語学者・酒井に引き取られて学者にまでなる。主税には芸者お蔦と湯島に所帯を持つが、主税の将来を案じた酒井はお蔦と別れろと厳命。月明かりの湯島天神で、主税はお蔦に別れ話を切り出す。お蔦は「別れろ切れろは芸者のときに言う言葉」との名文句で抗するも、恩ある酒井の指示と知り、泣く泣く首を縦に振る…。

へちまの花【へちまのはな】

 丹波篠山の山奥に住むおちょこの面相は、「眉は熊、目は狸、鼻は猪、口は狐」と自ら認めるほどの醜い顔。嫁に行くことなどあきらめていたおちょこの家を、ある日京都大学の学生・高杉一馬が訪れ、おちょこに一目惚れしたという。実はそれは、裏地屋のきねと一緒になるための嘘であったが、本気にしたおちょこは一馬の迎えを待ちきれず、白無垢に身を包んで母と共に丹波を後にする。手紙でそれを知った一馬は、やくざの女を身ごもらせたと嘘をつくことにする。ようやく一馬の家を探し当て、やくざに大金500円をゆすられている一馬を見たおちょこは、なけなしの金を出して、「これで大事な一馬様を許してほしい」とやくざに頭を下げる。そして一馬に言った。「自分がここにいれば、あなたの足手まといになる。嘘でも一目惚れした、嫁に欲しいと言われてうれしかった。私は山へ帰るけれど、秋の夜長のつれづれにどうか私のことを思いだしてくれ。それだけでいい」そう言って一馬の家を出ていこうとするおちょこに一馬は土下座して泣いてわびる。
「僕が悪かった。目が覚めた。ぼたんの花はきれいだが、人を刺すとげがある。へちまは見かけ形は悪いが、人の体をきれいに洗い流す。おちょこさんはへちまの花のような人だ。僕の妻になってください」そして、二人はしっかりと抱き合うのだった。

文七元結【ぶんしちもっとい】

 もとは「落語の神様」と呼ばれた三遊亭圓朝が明治期に創作した落語で、それを歌舞伎として劇化したものが大衆演劇にも受け継がれているもの。人情味、喜劇風味、侠気を兼ね備えた主人公、長兵衛役は座長が演じるにふさわしい懐の広い役である。
 腕はあるくせに仕事もせずに博打三昧で、負けて借金をこしらえ、貧苦にあえぐ大工の長兵衛。一家を憂いた娘のお久は自ら身売りし、その身代で今度こそ改心して真面目に働く覚悟を決めた長兵衛だが、集金の金を落として橋から身投げしようとする手代の文七を助けて、大事な五十両を渡してしまう。家に戻ると女房からはさんざん責められるが、やがて金の見つかった文七が五十両と共に礼に訪れ、身請けできたお久と夫婦となり、麹町に元結の店を出して、おおいに繁盛する…。

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