■ま行
瞼の母【まぶたのはは】

 12歳で父を失い、幼いころに生き別れとなった母を捜して江戸へ出た渡世人・番場の忠太郎は、かつて忠太郎の故郷に子供を残してきた料理屋の女将・おはまのことを聞き、会いに行く。最初は路銀をゆすりに来たやくざと勘違いしたおはまだったが、すぐに息子であると気づく。だがおはまは再婚した相手との間にもうけた娘・お登世のために、自分の子ではないと突っぱねて忠太郎を追い返す。失意のうちに出てゆく忠太郎とすれ違ったお登世は、それがいつも母から聞かされていた兄だと悟る。忠太郎が手柄目当ての浪人・金五郎に狙われていることを知ったお登世は、母と二人で忠太郎の後を追う。しかし忠太郎は母と妹に名乗ることなく、一人姿を消すのだった。
 「一本刀土俵入り」で有名な大衆文芸作家・長谷川伸の代表戯曲。

マリア観音【まりあかんのん】

 江戸時代、隠れキリシタンが聖母マリアに擬してひそかに崇拝の対象とした観音像から題材を取った芝居。
 年に一度の祭礼でにぎわう浅草。スリの半次郎は北町奉行・安部文護守の財布を盗んで気づかれるが、年若ゆえ同情され、逆に一両小判をもらって諭される。貧乏長屋に帰った半次郎は小判を母親のお蔦に気づかれる。半次郎が財布と一緒に盗んだ印籠を見たお蔦は、その持ち主が、かつて芸者をしていた頃に愛し合い、短い間ながら夫婦にもなった安部文護守のものと気づき、半次郎に16年間隠し通してきた真実を話す。半次郎こそ、安部文護守とお蔦のたったひとつの愛の結晶だったのだ。ショックで家を飛び出た半次郎は、スリ仲間である三次たちが安部文護守の屋敷から、天下ご禁制の聖母マリア観音像を盗み出したことを知る。もしそれが人手に渡れば、安部の家は断絶、文護守は切腹となる。半次郎は、観音像を譲ってくれと三次に必死で哀願するが、にべもなく断られる。かくなる上はと死罪を覚悟のうえで、半次郎は三次たちを小刀で殺し、泣きながら観音像を抱きかかえて長屋に戻るのだった。
 夜も更けた安部文護守の屋敷に、半次郎が駆け込む。半次郎は素性を明かさず、ただ印籠と観音像を返し、仲間を殺してしまったと申し出る。その親切さに感じ入った文護守は、自分が妻子と別れた時のことを問わず語りに話す。自分が父親の急死のために家元に戻って、再度妻子のもとに帰ると、すでに2人はどこかに消え去ってしまっていたこと。観音像を手に入れたのも、「マリア観音を信仰していれば別れた者に再び会える」という言い伝えにすがろうとしたからだということノ。半次郎を控えの間に引き取らせた後、やってきた目明かしの藤造は、お蔦からの手紙を託されていた。そこにはお蔦と半次郎が文護守の妻子であったこと、お蔦はそれを知りながら、文護守の出世のため名乗り出なかったことノそしてこの手紙を文護守が読むころには、お蔦はもうこの世にいないということが記されていた。文護守は慟哭する。そして、翌日のお白州の場。文護守はすべてを包み隠し、半次郎に死罪を申しつける。だが刑場に運ばれる直前、半次郎は舌をかみ切り、文護守もまたその後を追うのだった。

娘道成寺【むすめどうじょうじ】

 紀伊国(今の和歌山県)に伝わる「道成寺」の伝説をもとに作られた能が原作。歌舞伎では数々の長唄「道成寺もの」が存在する。
 満開の桜が美しい道成寺の鐘供養の日に、きれいな一人の娘が現れた。彼女は舞を奉納するという。踊る娘は恋のことを語りつつ、隙をついて鐘の中に飛び込んだ。鐘を上げてみると、そこには恐ろしい蛇の姿があった。実は娘は、かつて鐘の中へ逃げ隠れた恋人の僧・安珍男を恨みながら蛇となり、鐘ごと男を焼き殺してしまった清姫の亡霊だったのである。
 舞踊ショーでよく使われる演目で、 平成16(2004)年には映画化もされ、「劇団舞姫」の葵好太郎座長が出演した。

明治一代女【めいじいちだいおんな】

 明治期に実際にあった事件をもとに作家・川口松太郎が昭和10(1935)年に小説化した「明治一代女」を舞台化したもの。小説よりも先に歌舞伎や新派で上演され、当初は見せ物的、猟奇的な取り上げ方だったが、小説化以後はお梅の、一人の男を思う一途な心のありようをじっくり描く内容となった。
 柳橋芸者・花井お梅は、若手歌舞伎役者・沢村源之助と相思相愛の仲。一方、「大秀」の女将お秀も、自分の娘、小吉をいずれは源之助の嫁にと考えていた。一本立ちの襲名披露に金が必要な源之助のために、お梅は金をなんとか工面したかった。そんなお梅の前に、箱屋(お座敷に上がる芸者の三味線を箱に入れて運ぶ職業)の巳之吉が現れる。以前からお梅に思いを寄せていた巳之吉は、実家の田畑を売り払って金を作り、それを源之助に渡して、お秀への意地が立ったら自分と一緒になってくれと頼む。覚悟を決めたお梅は最後に一度、源之助に会って別れを告げようとするが、その場を見た巳之吉が誤解し、出刃包丁でお梅を刺そうとする。もみあううちにお梅は逆に巳之吉を殺してしまう。(身を引くことを決意したお梅が自暴自棄になって酒をあおり、意見した巳之吉を誤って殺してしまうという筋の場合もある)

もどり橋【もどりばし】

 もどり橋のたもとで甘酒を売っている老女には、31年前、ある事情で橋のたもとに息子・時次郎を捨ててしまった過去があった。老女は息子のことが忘れられず、ここにいれば会えるのではと思って、戻り橋にいつづけていたのだった。老女にはもう一人、役人をしている息子・新吉がいた。新吉は盗人の業平小僧時次郎を探していた。新吉が母に会いに来て去った後、一人の男が甘酒屋に現れる。老女は男に、自分が昔、男の子を捨てたことをこと細かく語り聞かせる。実は、その男こそが時次郎だったが、時次郎は盗人である自分を恥じて、息子であることを打ち明けられない。そうこうしているうちに、時次郎は役人たちに発見され、取り囲まれる。窮地に陥った時次郎は、新吉にピストルを向ける。母は時次郎に取りすがり、「息子を撃たないでくれ!」と哀願する。その言葉に抵抗をあきらめ、おとなしく縄を受ける時次郎。その足下に、そっと下駄を差し出す母。母は、捕り物のさなかに、男が時次郎であることに気づいていたのである。「おっかさ〜んノ」涙ながらに時次郎は叫ぶのであった。

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